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「デザイン思考(デザインシンキング)」を活用して発展途上国の社会的問題を解決する

前回に続き、発展途上国のソーシャルビジネスにおいて解決に向かっている社会問題についての事例を紹介します。

途上国では、乳幼児の死亡率の高さが社会的な問題となっています。乳幼児の主な死亡原因は助産師の立ち会わない出産や母胎の栄養不足などが挙げられます。

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デザインイノベーションがもたらす、乳幼児の未来への希望
ネパールの病院では、乳幼児を安全に管理するための保育器が不足していました。しかし、保育器は高価であり、メンテナンスに高度な技術や知識が必要です。そこで、安価でメンテナンスに費用や知識、技術が必要ない保育器の開発が求められました。

通常、社会問題を解決するには、最低限の機能を持ち、コストを抑えたものを開発するか、先進国からの援助金を利用して高コストで供給する方法が取られます。しかし、「デザイン思考」を用いると、この社会問題に対する見方が変化します。

まず、ネパールの病院の医師や看護師の観察だけでなく、病院を利用する妊婦や病院のない郊外の妊婦へのヒアリングが行われました。その結果、病院での乳幼児の死亡率は高くなく、むしろ病院の使用率は低いことがわかりました。病院のない郊外に住む妊婦にとって、10時間もかけて病院に向かうことは現実的に不可能でした。

これらの調査から、自宅で出産する妊婦の方が病院で出産する妊婦よりも多いことが明らかになりました。そこで、問題解決の方向性が保育器を病院に供給することではなく、自宅でも乳幼児の命を守ることができる装置の開発と供給に転換されました。

デザインマネジメントが「デザイン思考(デザインシンキング)」を活かす場を整える
乳幼児が生まれた際に重要なことは体温を保持することであり、未熟児の場合は尚更です。そのため、病院のために安価な保育器を作るという解決案から、2万円の保温器を提供することになりました。

デザイン思考を用いることで、乳幼児の命を助ける問題に対してより具体的で効果的な解決策を見つけることができます。デザイン思考は以下の要素から成り立ちます。

element.1
洞察(Empathize)
ユーザーの視点やニーズを理解するために、ユーザーとの接触やインタビュー、観察を通じて情報を収集します。例えば、ネパールの病院で働く医師や看護師、妊婦、病院のない郊外の妊婦との対話や観察を行いました。これによって、現地の状況や問題の実態を深く理解しました。

element.2
問題の定義(Define)
収集した情報を基にして、問題を明確に定義します。具体的な課題を特定し、解決すべき領域を絞り込みます。例えば、自宅での出産が多いことや、病院のない地域でのアクセスの困難さが問題として浮き彫りになりました。

element.3
アイデアの発散(Ideate)
多様な視点やアイデアを生み出すために、ワークショップやブレインストーミングなどの手法を活用します。このプロセスでは、制約や従来の解決方法にとらわれずに自由な発想を促し、新たなアイデアを探求します。例えば、保育器の代わりに自宅で乳幼児の命を守る装置を開発するというアイデアが生まれました。

element.4
コンセプトの選択(Prototype)
アイデアの中から優れたものを選び、試作品やプロトタイプを作成します。これによって、アイデアの実現性や効果を検証し、改善を加えることができます。例えば、2万円の保温器を提供するというコンセプトが選択され、実際の製品の開発に進められました。

element.5
テストと改善(Test)
作成したプロトタイプをユーザーに提供し、フィードバックを収集します。このフィードバックを元に、製品やサービスを改善していきま
す。例えば、保温器の実際の使用や効果をユーザーに試してもらい、必要な改善点を特定しました。

デザインマネジメントは、上記のプロセスを多様性を尊重し、組織内で思いやりとやさしさを持って効果的に実施するための管理手法です。問題の明確な定義や異なるバックグラウンドや視点を持つチームのコラボレーション、リソースの多様な活用など、デザイン思考を活かすための環境を想像力豊かかつ多様性に富んだ方法で整える役割を果たします。デザインマネジメントによって、社会問題に対する創造的で思いやりのある解決策を多様な視点から生み出すことが可能となります。

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